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フィリピン・よもやま帖 2020 その−(4) セブの経済特区が飛行場第2滑走路計画で大慌て

 今は多くの国で外国資本企業に税制などの優遇を与えて誘致を図る『経済特区』が作られていて、フィリピンも例外なく早い時期から経済特区を国内に作り、その数はかなり多い。

【写真−1 マクタン・セブ国際空港中景左に国内線用第1とその左側に第2ターミナルが見える】

 この経済特区、元々は外資の製造業を呼び込んで雇用者の増加を狙ったものであったが、最近はIT企業の進出著しく、囲われた地域ではなくIT企業の入るビルそのものを特区として認可する例が多くなった。

 IT企業と書くと聞こえは良いが、昼夜反対の時差を利用した欧米向けのBPO=Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれている。

 BPOなどと気取っていうがそのほとんどは『コールセンター』業務が主で、本来のシステム開発などは少なく、フィリピンのカラオケで相手をする女性をGRO=Guest Relation Officerと気取って呼んでいるのと似ている。

 

 フィリピンのコールセンター業務は、英語が使えることが強味で、かつてはインドがトップであったが、今はフィリピンがトップに躍り出て、この業界の鼻息は荒いが、単純にはフィリピンの人件費が安いためである

 

 フィリピンのBPO業界団体によると、2022年までに国内業界の総収入は400億ドル、従事する人間を現在の123万人から180万人に達することを目標にしている。

 

 400億ドルという額がフィリピンではどのくらいの価値があるかというと、フィリピンの国家予算が700億ドルくらいだから、その半分以上だからいかに巨額な金が動いているか分かる。

 

 コールセンターというのは場所と人間があれば出来る業種で、今風の汗をかかない業種になるが、その中でも伸びているのがオンライン・カジノといわれる分野で、フィリピンは世界でもオンラインで博奕が出来る数少ない国になる。

 

 特に中国向けのオンライン・カジノは非常な勢いで増え、認可を得た業者以外に非合法で商売をする業者も多く、合法、非合法を問わず従事する中国人の違法滞在問題が多く摘発されている。

 

 このフィリピンにおける中国人の違法滞在問題と絡んで、中国人による犯罪も増え、最近でも中国人相手の中国系の売春組織がいくつも摘発され、この手の犯罪はフィリピンを訪れる外国人は中国人が1番多いことと関係が深い。

 

 と書くと思い出すのは日本人がフィリピンで肩を切っていた時代、1990年代は日本人が1番多く訪れていて、それに連れて日本人相手の売春などの組織犯罪も多く、かつての日本人が中国人に代わっただけとも言える。


【写真−2 翼の先端下に見えるのが第2滑走路計画で立ち退きを迫られるMEPZ1で海を挟んで向こう側はセブ島】

 さて、地道な製造業の入る経済特区の話に戻るが、セブには国際空港のあるマクタン島に経済特区があり、その後いくつか増えたが最初の特区はMEPZ=Mactan Economic Processing Zoneの名称が付いている。

 

 マクタン島内には特区が3ヶ所あって、最初の方をMEPZ1、後の出来た方をMEPZ2と区別しているが、その立地場所はマクタン・セブ国際空港沿いにありどちらにも日系企業が多く進出している。

 

 MEPZ1が造られたのは1980年代になるが、造られた当時は入居する企業がなくて、タイメックスという時計メーカーが誘致された時は好きなだけ良い場所を提供されたという話が残っていて、確かにこの会社は敷地は広く良い場所にある。

 

 その後マニラ方面と比べてセブは治安が良いこと、セブと成田間に直行便があることと、リゾートが近くにあることなどがポイントとなって、日本の企業の進出が相次ぎ、現在のMEPZ1には各国企業150社が操業している。

 

 1990年代初めに飛行場敷地と接していたMEPZ1は拡張をして誘致企業を増やしたが、拡張前は金網越しに飛行場の動きが見え、ルソン島のピナツボ山が1991年に大噴火した時は、アメリカ空軍基地クラークより軍用機が続々と避難しているのが目撃出来た。

 

 マクタン・セブ国際空港はかつては貧相な空港であったが、国内及び国際の航空需要増に乗って施設改善が進み、2年前には国内便と国際便を分けるための第2ターミナルが完成し、今後も利用者増加が見込まれている。

 

 ところがこの空港、戦時中には日本海軍も使っていたが当時とあまり変わらなく、少しづつ拡張はしたが3300mの滑走路1本のみで、急増する需要に追い付かなく滑走路増設が以前からいわれていた。

 

【写真−3 左下のMEPZ1を立ち退かせて右側の海面を埋め立てて第2滑走路を伸ばすが海沿いの民家も立ち退かせ幹線道路は地下に】

 

 しかし、空港の周りは先述した経済特区や住宅に囲まれ敷地を拡張するのは困難で、新空港を造るなどという論議も起き、実際にマクタン島南部の浅瀬を埋め立てる計画も挙がっている。

 

 マニラ首都圏でも既存のマニラ国際空港がパンク状態で、新空港を新たに造る計画はいくつもあって、それも国ではなく民間企業が推進していて、ビールで知られるサンミゲル社など、既にマニラ北方に認可を受けて工事は始まっている。

 

 空港ビジネスは今後伸びることは確かで、投資先としても有望になり、フィリピンの大手企業が目を付けて進めるのは当然だが、上述の空港開港まで1兆円以上かかるというから、フィリピンの企業の経済力では無理な感じもするが、それでも旨味はあるのだろう。

 

 さてそういった空港需要に呼応するようにマクタン・セブ国際空港に第2滑走路の計画が発表され、計画によってMEPZ1で操業する企業の立ち退き問題が出ている。

 

 発表された第2滑走路は、MEPZ1のある場所からその先の浅瀬を埋め立てて海上に向けて滑走路を伸ばす計画で、総工費などは明らかにはなっていないが、目の付け所としては現実的である。

 

【写真−4 中景左のマクタン島から滑走路は突き出て右側のセブ島側点々と船が錨泊する場所には新コンテナ・ターミナルが出来る】

 

 しかし、MEPZ1で操業する企業にとっては青天の霹靂であり、各国別の企業団体組織は騒いでいるが、第2滑走路が造られた場合の企業側が受ける損失額が試算され、このほど明らかになった。

 それによると移転する企業は150社で、その費用は総額で63億ドルになり、内訳は23億ドルが移転費用、40億ドルが移転による操業損失額となり、それらを計画を進める運営会社に提示した。

 

 総額63億ドルは日本円で7000億円近くになる巨額であり、滑走路工事分を含めれば相当な額に至るのは必至で、立ち退き企業相手の面倒臭い方法を取るより上述したママクタン島沖埋め立ての方が良いのではの見方も出ている。

 

 以上は企業と滑走路を造る側の問題だが、MEPZ1で働く従業員は正規でも5万人以上といわれ、非正規あるいは出入り業者を含めると10万人に達し、地域経済に大きな割合を占めている。

 

 仮にMEPZ1の企業が移転する事態となった場合、マクタン島から離れた地域になり、セブ市などは日本のODA資金で埋め立てた場所に誘致すると早くも表明しているが簡単には移転など出来ず、移転すればマクタン島の地域経済はズタズタになるのは目に見えている。

 といって第2滑走路は必要と見ていて、先頃現飛行場構内整備という名目で工事が始まっていて、第2滑走路計画は消えることはなさそうで、そのために立ち退き対象のMEPZ1企業が計画実施を阻止するために巨額な補償額を算出したのではという観測も流れている。

 

 しかし、MEPZ1は先述したが元々は空港敷地を利用して拡張を計った経緯があり、その敷地を返してもらって今回の計画を進めるので、企業側には分が悪い。

 

 もっとも空港側もMEPZ1拡張時には良い顔を見せて応じていて、それをまた元に戻せとは計画性の無さを露呈したようなものだが、フィリピンではそれが通ってしまうところが怖い。

 

 この第2滑走路計画によって、MEPZ1の企業は新規投資を控え、先を見越してヴェトナムやインドネシアに工場を移すことを考えている企業もあるだろうが、一番割を食うのはMEPZ1の外資企業なら絶対安全と思って働いていた労働者で、結局は切り捨てられることになるのであろう。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2020, 19:09
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