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この一枚2019年 セブ篇 その(11) フィリピンの足 『トライシクル』

 トライシクルというのはオートバイに屋根付きの側車を付けた3輪車で、フィリピンでは重宝な足になっている。

【ひと乗り8ペソからあとは距離と場所によって支払う額は変わる】
 

 フィリピンに来て一番驚いたのは『歩かない』ことで、家から目と鼻の先の場所でもこのトライシクルに乗って行く人が多く、これも暑い日差しの下では歩くのが大義だからと理解はできるが、それにしても歩かない。

 写真を見ると分かるようにトライシクルの構造はオートバイが左側、側車は右側にありオートバイ側には運転手を含めて3人、側車には4〜5人は乗れる座席があり7〜8人くらいが乗れる。

 オートバイのエンジンは125ccが多く、これに側車と客の重量が加わり、総重量はいくらになるか分からないが、かなり重たくなっていることは確かで、急な坂道ではウンウンとエンジンを唸らせて走っている。

 7〜8人は乗ると書いたが、それは都市部など警察の目のある所であって、地方に行くと屋根の上に乗ったりして10人を超え、それプラス荷物を満載したトライシクルも珍しくない。

 このトライシクル、その鈍重な機能性のなさから都市部の大通りからは追い払われているが、大通りと大通りを結ぶ横丁などではまだ大活躍で需要も多いし、地方ではまだまだ交通の主力となっている。

 このトライシクル、地元にある小さな鉄工所でデザインし製作されているので、地域ごとにデザインは様々で、その違いだけでも目を楽しまさせ小生など地方へ行く都度に写真を撮っている。

 写真のトライシクルは標準的なスタイルだが、側車形式ではなく中央にオートバイを置いて箱型の客室を引っ張るタイプもあって、これなど車輪が4つあって正確には4輪車になる。

 また、法律的な制約があるのか、地域によっては客室には並んで2人しか乗れない構造のトライシクルもあって、1人いくらの運賃で運ぶトライシクルとしては稼げないタイプもある。


 先年、ルソン島北端を旅行した時、彼の地では側車は2人掛けで、しかもその屋根はかなり低く、頭を縮めて乗るような窮屈さを感じたが、ルソン島北端のバタネス諸島でも同じような作りで不思議な感じがした。

 トライシクルの運転は見ている限りは楽そうだが、一度広場で運転をさせてもらった時があり、意外に真っ直ぐ走らせることは難しく、曲がる時もハンドルは重くかなり要領が必要であった。

 フィリピン全土にトライシクルが何台あるのか統計的に出ていないが、アジア開発銀行によると2014年では350万台と推定されているから。それから5年も経った現在では400万台に迫ったか追い越しているのではないか。

 アジア開銀(ADB)がトライシクルのデータを作っているのは、ガソリンエンジンのトライシクルを電動化するプロジェクトがあって、2017年までに10万台を電動化するとなっている。

 公害対策としての電動化プロジェクトで、総事業費は5億ドルを超す巨費が投じられ、ADBは内3億ドルを融資するとなっていて、既に電動トライシクルが日本企業によって生産、運用されている。

 ところが、このプロジェクトは個人事業主であるトライシクル運転手に融資して所有させるため、元々資力のない運転手が高価な電動トライシクルを持つことは不可能で早くも行き詰っている。

 このプロジェクト、トライシクルなどに乗ったことのない日本のJICAや銀行屋がフィリピンの実情を知らずに作った代物で、甚だ評判が良くなく、早くから頓挫すると指摘されていたがその通りになっている。

 

 電動化となると従来のエンジンとは違う整備体系となり、その整備体制や充電設備など包括的に考えられなければならないし、何よりも致命的なのは乗車定員が少ないことで、多くの乗客を運んでいる現状から地方では普及が難しい。

 

 それでも電動トライシクルは国内で生産されていて運用もされているが、運用区域が狭い範囲に限られていて、まだ本格的に全国的展開とはならず、連れて導入台数も予定の10分の1以下と惨憺たる有様。

 こういう机上では成功する予定のプロジェクトというのはフィリピンの過去には多く、特にJICAが絡んだ無駄な、あるいは失敗したプロジェクトはいくらでもあり、税金が空しく消えている。

 その問題点は自分の懐から出していない『税金』が当てられるためで、無駄だろうが失敗しようが誰も責任を取らず、成功譚を大袈裟にしているのが日本のODAのこの手の実態である。

 

 話は横道に逸れたが、トライシクル運転手も日銭商売で、いくら一生懸命に働いても下層階級の範疇から抜け出られないのが現実であるが、それでも時々そういった家庭から子どもが弁護士になったとか士官学校を一番で卒業したといったニュースが流れる。

 ニュースになる位だから稀な例になるのだが、日銭商売で子どもを育て高等教育を受けさせる運転手を思うと、怠惰と思われがちなフィリピン人も働き者は多いことが分かる。

 

 トライシクルを構成するオートバイだが、現在フィリピンは爆発的なオートバイ・ブームで2016年にはオートバイ所有は530万台を超えた程度であったが、今では1000万台に達しているのではないか。

 

 そのため、交通事故も激増し、実際車で道路を走ると右に左にオートバイがすり抜けて走り、渋滞時には平気でセンタラインを超えて反対車線を走って来るのが当たり前で危険極まりない。

 

 このオートバイ・ブームもオートバイが分割で買い易くなったのが一因だが、フィリピンは金利が非常に高く年利20%は取られ、これは例えば5万ペソのオートバイを36回払いにした場合、総額で10万ペソを超える金額になる。

 一ヶ月当たり3000ペソになり、最低賃金が1日500ペソを超えた程度の大多数には負担は大きいが、トライシクルやジプニーに払っている交通費を考えると無理してでも買って、例えば夫婦相乗りならば元は取れるということになる。

 となると従来トライシクルを利用していた層が離れることになり、トライシクル運転手の収入にも影響は出ると思うが、今のところそういった話はないものの、徐々に効いてくるのではないか。

 


 

author:cebushima, category:この一枚2019年 セブ篇, 19:12
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