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フィリピン・よもやま帖 2019 その−(6) フィリピン漁船に当て逃げの中国船 それを巡る大統領の歯切れ悪し

 世論調査によると支持率75%以上を得て、低支持率で喘ぐアメリカのトランプや日本の安倍も羨むドゥテルテ大統領だが、任期6年の内の4年目に入った。



 平均寿命の低いフィリピンではドゥテルテの74歳という年齢はかなり高齢者の部類に入り、健康不安や情緒不安定が囁かれ、本人も弱音を吐くが権力の座は美味しいのか任期途中で辞めることはなく単なる話題作りで楽しんでいる。

 ドゥテルテの支持が高いのは順調な経済成長を遂げているためもあるが、これは別にドゥテルテが登場しなくても、新興国に付き物の一定程度予定された世間の経済成長であり、本人の手腕などあってもなくてもあまり関係はない。

 そのドゥテルテが現在、国民各層からボロクソに非難、批判を浴びせられる事件が出来し、強気発言で知られるドゥテルテとその取り巻きは防戦一方となっている。

 この事件とは中国が領有権を主張して違法に占拠している南シナ海で、錨を打って停泊中のフィリピン漁船に中国のトロール漁船が衝突し、救助を求めた22人の乗組員を置き去りにし逃げたことから問題になった。

 乗組員全員は付近に居たヴェトナムの船に救助されたが、船籍を問わず助けを求める船、乗組員に対しては救助をするのが国際間の決まりであり、当て逃げした中国船に対して強い非難の声が挙がった。

 これに対して中国政府はいつものように『事実が確認できない』などと開き直った見解を出していたが、このいかにも見下した物言いからフィリピン人の中にある『反中国』感情に火が付き、マニラ首都圏にある中国大使館にデモ隊が押し寄せる騒ぎに発展した。

 ドゥテルテというのはミンダナオ島ダヴァオ市では市長として君臨した人物だが、2016年の大統領選に立候補した時は泡沫候補並みであったが、当時のフィリピンの時流に乗って大統領選に当選するが、得票率はかなり低かった。

 

 それでも『薬物依存者は皆殺しにする』とする選挙公約が真に受けて、実際大統領就任時から警察、自警団による殺害事件が多発し、警察の公式発表だけでも今年の5月までに6600人という数字が出ている。

 

 この警察発表の数字を信じる物は誰もいなくて、人権団体によると15000〜20000人は殺害されているとし、政府機関であるフィリピン人権委員会でさえ27000人がドゥテルテ政権発足後に殺害されているとの見解を出している。

 

 そのため、フィリピンにおける違法薬物関与者殺害は重要な人権侵害だと国連でも問題となり、その調査官がフィリピンで調査をしようとしたら入国を認めない措置を出し、都合の悪いことは隠蔽する、これもトランプや安倍と同じ軌跡を描いている。

 

ドゥテルテ自身は、ダヴァオ市長時代に治安維持を名目に犯罪者を何人も殺していると告白し、それが逆にフィリピン人には受けて人気が高まる始末で、人権思想など本人には全くなく、邪魔者は消せという政治スタイルを取り続けている。

 ドゥテルテの手法では過激なアドバルーンをぶち上げて問題にする方法が巧みで、最近でも韓国やカナダから大量にフィリピンに持ち込んだゴミ問題を巡って『ゴミを引き取らないのなら戦争を仕掛ける』発言は有名で、その剣幕に恐れをなして両国はゴミを引き取らざるを得なかった。

 

 そういったパフォーマンスが国民に受けたのは事実だが、こういった不法なゴミあるいは相変わらず多い密輸など密輸に関与した会社や人物が挙げられて処断されたという話は聞かずから、どこかナアナアのところで終わってしまうことが多く、それがこの手の犯罪がなくならない要因ともいえる。

 

 毒にも薬にもならない次元には強面のドゥテルテだが、中国に対しては非常に甘く、本人も親中というくらいで、今回発生した中国船当て逃げ事件に対してもはっきりした批判を行わず、ドゥテルテと中国の関係はおかしいと洗い直されている。

 

 ドゥテルテが親中にならざるを得ないのは、大統領選時の選挙資金を中国系財界人から出してもらったことと関係があり、そのスポンサーに対しては便宜を計らうため当選後は中国系企業による巨大プロジェクトが次々と決まっている。

 

 これなど選挙資金の見返りに利権を与えているそのものだが、インフラ整備という美名のもとにそういった怪しい関係は問題にされず、ドゥテルテの任期中に完成させるという無理なプロジェクトが目白押しとなっている。

 ドゥテルテは歴代大統領の中では比較的『金』には汚くない人物といわれるが、2022年の大統領選には娘を後継者として引っ張り上げたい野望を持っていて、当然選挙資金は莫大になり、その資金源はまた中国系からと見られている。

 

 実際、現在フィリピンの携帯電話会社は大手2社の寡占状態になっているが、これにもう1社を加えることが決まり、その1社はドゥテルテの盟友であるダヴァオの実業家が立ち上げた電話会社であり、入札という方法を使いながら出来レースという批判が高い。

 また、中国の巨大プロジェクトがドゥテルテの地盤であるミンダナオ島に偏っていて、これも地元優先、明らかな利益供与ではないかと指摘されるが、本人はミンダナオのためになるとシャアシャアとしている。

 

 そういった中国にズブズブの関係と恩義があるためか、今回の中国船による当て逃げ事件に対しては日頃の威勢の良い発言は封印し、口に物が挟まった発言しかできず、その弱腰から中国大使館へのデモに発展してしまった。

 

 この事件の落としどころだが、当て逃げされた船長がドゥテルテの発言には失望したと述べているように、今後も尾を引きそうだが、中国による南シナ海の占拠に対してドゥテルテは『フィリピンの主権のある島が中国に乗っ取られたら戦争をする』といっていた時とは大幅に引いているのでグズグズと燻り続けるのではないか。

 さて、5月に行われた中間選挙ではドゥテルテ与党が大勝して、野党の影が薄くなったが、これだけ勝ってしまうとドゥテルテは憲法で禁じられている大統領の再選ということも考えているのではとの観測が出ている。

 

 そんな馬鹿なと思っても、独裁者マルコスは憲法で禁じられているにも関わらず法を変えて独裁政治の道を開いたから、フィリピンでは何があってもおかしくはないし、先述した現在ダヴァオ市長の娘を身代わりに立候補させて、当選後は上から操作することも考えられなくはない。

 

 最後に、ダヴァオに政治王朝を築いたドゥテルテ一族だが、父親は現大統領、長女は跡目を継いで現ダヴァオ市長。このダヴァオ市長選だが対立候補は数千票しか取れなかったらしいが、立候補しただけでも殊勲者で良くぞ殺されなかったと思う。

 

 なお長男は長女と組んで副市長をやっていたが、密輸疑獄が持ち上がって任期途中で辞任して臭い物に蓋をしたが、今回の選挙ではダヴァオ市を選挙区とする下院選に出て当選し、フィリピンの選挙民の頭の中味はこの程度と天下に知らしめした。

 

 また、次男がダヴァオ市の副市長に当選するが、この次男、サーフィンしかできない人物として有名であったがドゥテルテの名前で当選し、一体この国の有権者はどうなっているかと思うが、有権者も利権に食いついているのも事実だから、誰でも良いのであろう。

 こうしてフィリピン国内は大小の政治王朝で成り立っていて、まるで中世時代がそのまま残っているような状態だが、これがある限りはフィリピンに真の民主主義はない。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2019, 18:46
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