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フィリピン・よもやま帖 2019 その−(5) 2018年のセブであった邦人女性殺害事件の顛末

 2019年6月12日、兵庫県警捜査一課と明石署は自分の妻を殺害するよう指示したとして77歳の夫を『殺人罪』容疑で逮捕し、同夫は送検された。
 

【ルソン島山岳部の町にて】


 この事件は前年の8月24日、セブ市内で運転をしていた邦人女性(当時70歳)が、幹線道路の交差点で停車中に2人乗りのオートバイが近づき、左のガラス越しに銃撃され頭や胸などに3発の銃弾を受け即死。

 殺害された女性はセブ市南に隣接するタリサイ市で日本向けの雑貨や家具を製造する会社を経営していて、最初は仕事あるいは金銭トラブル絡みでの殺害事件と見られていた。

 夫婦は20年くらい前にセブへ来て、セブ日本人会に入会し、夫は年1回の日本人総会に出席してかなり五月蠅い意見を吐くので、それなら万年人材不足の日本人会理事になってはどうかと誘われたが、自分の考えをいうだけの性格なのかそれで終わった。

 この夫婦はいずれ事業に失敗して日本に帰るだろうと見られていたが、設立した会社の工場には事件当時100人ほど働いていて、それなりに事業者としての手腕はあったようだ。

 夫婦で作った会社であったが2014年には夫だけが日本へ帰ってしまい、会社経営は殺害された妻が担うが、夫はセブの会社からの収入を当てにし、日本へ帰った際には2000万円の会社の金を持ち出すなどして夫婦の関係は冷えていた。

 また、夫は10年ほど前からセブに住む10代の女性を愛人にし、この愛人には女児が生まれ、そういったことが夫婦間の決定的なトラブルとなり日本で離婚調停、その後2018年8月には妻から離婚訴訟が起こされた。

 訴訟を起こされたその数日後に妻は殺害され、離婚訴訟のこの間の経緯を知っている夫婦間の子どもなどは『父親が殺した』と憤り、これはセブで行われた葬儀でも列席した日本人に対して口にしていた。

 フィリピンでは2人乗りオートバイによる銃撃事件は頻発していて、ヘルメットを被った2人乗りオートバイを禁止する法案が真剣に検討されたくらいで、後方から2人乗りのオートバイが運転席に近づいて来たら要注意とまでいわれている。

 実際、この手で裁判官、検事、弁護士や警察などの公職関係者、あるいは政治家、ジャーナリストなどが殺害されていて、これは恨みを買い易い役職であることと、銃器が野放しで暗殺する実行犯を安い金で雇える事情がある。

 フィリピンでは1万ペソ(2万円少々)もあれば殺し屋を雇えるという噂が前々からあり、まさかと思っていたがたまたま捕まった殺し屋が前渡金5000ペソ、実行後の支払いを巡って依頼者と揉めて逮捕された事件があって、その話は本当であったと驚かされた。

 殺害を指示したとされる夫の逮捕のきっかけだが、殺害事件後にドゥテルテ政権が強力に進める『違法薬物関与抹殺計画』作戦中に、夫の愛人(28歳)と銃撃実行犯の男(29歳)が違法薬物と銃器不法所持容疑で昨年9月に逮捕されたことから始まった。

 いわゆる別件から殺害事件の犯人が判明した訳で、この2人は既に有罪判決を受けて服役中だが、その取り調べから、夫の指示による妻の殺害が濃厚になり、この2人はフィリピンの司法当局によって『殺人罪』で追起訴された。

 その後、2019年6月になって日本に住む夫に対してフィリピン検察は逮捕状を発行するが、フィリピン当局の逮捕状が他の国、即ち効力を持つのかという疑問は当然あり、日本に住んでいる限り夫は逮捕されないのではと思われた。

 フィリピン側から見ると日本に住む夫は『国外逃亡犯』と同じだから、法的手続きとしては国際刑事機構を通じて国際手配し、日本で逮捕してもらい身柄をフィリピンに送致してもらうことが考えられる。

 そうなると、外交問題が絡んで時間がかかるなと見られていたが、国際刑事機構経由云々は全くの杞憂で、こういった刑事事件では日本の刑法中に『国外事犯』として、海外で起こした犯罪に対して逮捕、起訴できる仕組みがある。

 例えば卑近な例として、日本人が外国で買春して日本へ帰っても、現地で立証されれば日本で逮捕されることが可能になったように、海外で犯した犯罪だから日本へ帰れば問題ないということはなくなった。

 今回の事件は殺人であるから日本の警察も調べを進めていて冒頭の逮捕に至った訳だが、これは6月にフィリピンの司法当局が夫に対する逮捕状を発行したためであり、満を持して日本で逮捕状を執行したと見て良い。

 

 フィリピンは日本人犯罪逃亡者の多い国と知られるが、こういった逃亡犯はだいたいは『不法滞在』でフィリピン入管に摘発され、日本に強制送還、フィリピンと日本の領海上空で逮捕に至り、最近でもフィリピンへ逃げた積水ハウス巨額詐欺事件の主犯が捕まっている。

 

 また、最近は少なくなったがかつては保険金詐欺事件の多発国で、保険金絡みで殺害される日本人も多く、フィリピンに住む不良日本人が殺害の手引き、あるいは実行犯であった例もあり、こういった輩は国外事犯として追及されることは必至で、フィリピンに居るから安心ということはなくなった。

 

 今回の夫逮捕の報を受けて、セブに古くから住む日本人の間では祝杯を挙げた人も居るというから、よほどこの事件が気にかかったのであろうが、フィリピンに安易に移住する日本人夫婦が増えている昨今、同じような事件が起きないとは誰もいい切れない。

 

 逮捕、送検された77歳の夫が警察から車に乗った写真が地元新聞に掲載されたが、前歯は抜けていて、いかにも老残と印象を与え、セブで大きな口を叩いていた頃とは驚くほどの様変わりであった。

 

 『天網恢恢疎にして漏らさず』という言葉を思い起こさせるような、事件の顛末となったが、日本の裁判の結果に注視したい。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2019, 17:27
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