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2月8日(土) 曇り、夕方小雨、軽風 閑話休題 《 火野葦平 『花と龍』 》
 フィリピンにある邦字紙のNHKワールド・プレミアム番組表を覗いたらETV特集で『戦場で書く−作家 火野葦平の戦争』を放映することが書いてあった。今日1305から1434まで1時間半の作品になるが、私の家にはテレビはないので観ることはできず惜しい。何で今頃、半ば忘れつつある作家の特集をするのかと思ったが、火野葦平は1960124日に睡眠薬自殺をしていて、今が2月だからという関係だろうか。

 NHK
も最近は会長やら経営委員がペラペラ本音を開陳して物議を醸してもクビにもならず、この組織も『報道』というより政府自民党の『広報』になっているが、現場ではなかなか興味深い番組を放映するようだ。

 この番組に目が行ったのは、たまたま数日前に写真の火野葦平の代表作『花と龍』下巻を読み終えていて、この本は本を整理していて出て来た。上巻はだいぶ前に読んでいたが一緒にあったと思った下巻は行方不明だったが、上巻を読み終えて是非とも下巻を読みたいと思わなかった結果でもある。

 写真の文庫本は昭和
46年発行の11版とあり、40年以上も経過して表紙はボロボロ、中の紙面も茶色く変色し、活字も今は使わない小さいポイントになっていて時代を感じさせる。

 火野葦平は
1907年、現在の北九州市若松区に生まれ、1938年、日中戦争に応召する前に書いた『糞尿譚』で第6回芥川賞を受賞。この前の5回に尾崎一雄『暢気眼鏡』、後の7回に中山義秀『厚物咲』で受賞しているが、75年も前だと作家名は承知していてももうピンと来ないのも事実。

 火野葦平は『麦と兵隊』『土と兵隊』『花と兵隊』の兵隊
3部作で知られるが、私は題名を知っていても読んだことはなく、こういった一連の戦争文学を戦時中は従軍作家として軍部に協力したために、戦後その責任を問われ1948年〜1950年の間、公職追放されている。

 火野葦平の戦時中の著作物リストを見ると、フィリピン従軍のことを書いた本があって、フィリピン戦線が総崩れ時に出した
19452月の『比島民譚集』と戦後1952年の『バタアン死の行進』があり、他にもフィリピンのことを書いているかも知れないが、国会図書館でも行かないと読むことはできないだろう。

 さて、『花と龍』は『バタアン死の行進』を出した同じ年の
4月から読売新聞に1年に渡って連載された新聞小説で、火野葦平の父親金五郎と母親マンをモデルにした小説でなかなか痛快な小説仕立てとなっている。火野の父親は戦前に若松地区の石炭を積み込む沖仲仕を束ねた親分で、相当な時代を生きたことが小説の中から読み取れるし、火野自身も長男としてやはりモデルに書かれている。

 この小説は時代背景と、九州の若松という土地柄が面白く、また映像化し易いのか映画やテレビで何度も取り上げられている。それを順に追っていくと最初の映画は
1954年、東映作品、監督佐伯清、金五郎には藤田進、マンに山根寿子、物語の狂言回しになる女博徒お京に島崎雪子の配役。この映画で面白いのは團伊玖磨が音楽を担当している。

 次が
1962年、日活作品、監督舛田利夫、金五郎は石原裕次郎、マン浅丘ルリ子、お京岩崎加根子。この映画は私も地元の映画館で見たような記憶があるがどういう映画だったかはもう覚えていない。

 1965
年、東映作品、監督山下耕作、金五郎中村錦之介、マン佐久間良子、お京がこの間亡くなったばかりの淡路惠子で、この映画が縁で中村と淡路は結婚に至ったようだ。こちらは翌年にももう1本撮られている。

 次が
1969年、当時全盛だった東映の『日本侠客伝シリーズ』の一つとして、監督マキノ雅弘、金五郎がこの間文化勲章をもらった高倉健、マン星由里子、お京藤純子。翌年にも題名を『昇り龍』として監督山下耕作、高倉主演で撮られていて、マン中村玉緒、お京藤純子。こちらが異色なのは主題歌を美空ひばりが歌っていた。高倉健の映画はずいぶん観ているからこの2本も観ていると思うが、残念ながら記憶に残っていない。

 最後の映画化は
1973年、まだ健在だった大映作品、監督加藤泰、金五郎は渡哲也、マン香山美子、お京倍賞美津子という配役。テレビドラマにも行く度か取り上げられ1963年、64年、70年、92年に放映。

 この小説は龍の彫り物が下敷きになっているので最近のように、特に大阪の橋下のような軽薄な人物に代表される彫り物=悪人と決めつける状況では映画化やドラマ化は難しくなっているのか、取り上げられることがなくなった。

 また、こういった任侠物が取り上げられた時代を俯瞰すると
1960年と1970年代の反体制運動の昂揚期と重なっていて、今のような去勢された世の中では、今後も陽の目を見る時代はないのではと思える。最後に任侠物としてこの『花と龍』を読んでも良いが、これは夫婦愛、家族愛の物語でもあり、また戦前の一貫した階級闘争の物語でもあり毛嫌いして読まないのはもったいない。


 
author:cebushima, category:閑話休題2014年2月, 19:49
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