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2011 アキノ政権 Watch (5) カトリック教会の2大タブーに挑むアキノ政権
セブ大聖堂内部 アキノ大統領は50歳を超えて今だ独身で、時々芸能人まがいのガール・フレンドは誰々とニュースが流れるが、政権は目下『人口抑制法案』と『離婚法』の成立を目論んでいる。

 フィリピンはカトリック信者の割合が人口の80数%を超す、アジアで最大のカトリック国だが、先の2法案に対して教会側は強力な反対運動を展開している。

 人口抑制法案は爆発する国内の人口を緩やかな成長とし、ほとんど手の付けられていない性教育、避妊具を買えない貧困層へのコンドームの無料配布などで、望まない妊娠を避ける政策でいわばフィリピンの人権問題でもある。

 これに対して教会側は『コンドーム使用は中絶と同じ』と訳の分からない論理をかざし、教会の票が欲しい議員を動かし法案に反対しているが、賛成派は多数を占め、可決されるのではの観測が出ている。

 一方、『離婚法』だがこれについてはアキノはあまり積極的でない考えを示している。フィリピンは法律で離婚を禁止している世界で2つしかない国の1つになり、前世期の遺物がまだ機能している稀な国になる。

 もう1つの国は地中海にあるマルタだったが、この間国民投票が行われ、離婚賛成派が多数を占めて離婚を認めない国はフィリピンだけになった。

 カトリックの場合、離婚は神の教えに背くとなっているが、ヨーロッパのカトリック国全部、バチカンおひざ元のイタリアも離婚を認めているからフィリピン・カトリック教会が主張する論理はすでに破綻している。

 フィリピンは以前は一切離婚を認めなかった国だが、アキノ(母)政権の時代に、激増する国際結婚の実情に合わせるために、フィリピン人の外国人との結婚の場合は離婚を認めるようにした。

 またフィリピン人同士でも離婚の抜け道はあって、『婚姻契約の解消』裁判を起こせば別れることはできる。しかし、この制度は裁判に膨大な時間と莫大な金が必要なため、富裕層だけが使える手でこの手を使って別れる政治家や芸能人は多くその不公平さは以前から問題になっていた。

 一般の場合は別居して離婚状態を続けるしかなく、その間、互いに伴侶を見つけて一緒になる場合が多く、生まれた子どもは法律的には婚外子になり、その人権も問題となっているしこのケースがまたやたらに多い国でもある。

 2005
年の離婚についての世論調査では離婚賛成が43%、反対が44%とわずかに反対が上回っていたが、今年3月に行われた同様調査では賛成50%、反対33%、分からない16%となり、賛成派が反対を大幅に上回り、保守的な国民の意識が変化しているのが分かる。

 社会階層別では中間層から貧困層にかけては賛成派が大きく増加、反対派をしのいでいるが、中間層以上の富裕層では賛成は多いものも増加率は少なく、この層は『婚姻契約の解消』に高額出費負担可能であり、わざわざ離婚法を制定しなくても良いと見ている。

 こういった民意を受けて防戦する教会側は『納税拒否』とかいろいろ戦術を考えているようだが、これではフィリピン一の地主である『カトリック教会の特権』にメスを入れる必要があるようだ。

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author:cebushima, category:2011 アキノ政権 Watch, 16:30
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2011 アキノ政権 Watch (4) 人口抑制法案を巡る政府と教会の不毛な攻防
法案支持のグループ フィリピンはアジア最大のカトリック信者を抱える国で、人口9,400万人以上の国内人口の内80%以上の割合というから、少なくても7,500万人以上の信者がいることになる。

 そのためこのカトリック教会の力は絶大で、フィリピン憲法では政教分離が明記されているのに教会は平気で政治に口を出すし、政治側も教会の差し出口に従う悪しき慣習が続いている。

 カトリック教会もその国の指導層の出来不出来で開明な国もあるし、頑迷な国もあるがフィリピンは頑迷な国の一つになり、その例として最近論議されている『人口抑制法案』を巡る教会側の動きがある。

 この法案は『Reproductive Health Bill』といわれているもので直訳すると『性と生殖に関する健康』となり、何とも厳めしい法案になる。

 これは爆発する人口に対して法的にいろいろ手当をして適正な人口増加を計ろうという法案で、既に遅すぎたきらいがある。新興国の人口爆発は経済成長を食い潰し、貧困から抜け出せない最大の要因と指摘されているが、このフィリピンも例外ではない。

 人口増に何の対策も取らない国は25年で人口が倍増するという理論があって、このフィリピンがまさにそれに当てはまる国で私がフィリピンに来た四半世紀以上前は人口は5,000万人台だった。それが海外移民や出生届を出さない数百万人を含めれば楽に1億人を超してしまった。

 この人口問題は初のプロテスタント大統領だったラモスの時代に、一度俎上に挙げられたが法案審議はいつの間にか消えた。それ以降のエストラーダ、アロヨ政権ではカトリックの機嫌を伺って人口問題はまったく消えた。

 それが現アキノ大統領になって現実味を帯び、法案が議会に提案され本会議で審議が始まっている。

 この法案は30億ペソ(約59億円)の予算を付けて望まぬ妊娠(妊婦の半分は望まない妊娠だったとの調査もある)を避けるために政府が貧困層に避妊具などの配布、性教育の普及と極めて穏やかなもので、この手の法案で常に対立する『中絶』に対する規定は曖昧なままになっている。

 フィリピンにおいて闇の中絶は年間5060万に達するといわれ、法律で絶対禁止の国内現状が実情にそぐわない面もこの法案が出てきた背景にある。

 これに対して反対するカトリック側は『コンドームによる避妊は中絶と同じと』と無意味な『神学論争』を議会に持ち込んで廃案を目指している。

 今回のこの法案に対して下院議員の間には支持する者が多く、可決され上院に送られると見通されているが、無意味な売名行為としか見えない質問議員が続出し2012年まで審議が引き延ばされる可能性も出てきた。

 また、情勢不利と見たカトリック教会側がアキノ大統領の『破門』や『納税拒否』と恫喝を繰り広げ、カトリック教会の固定票が欲しい議員個々に圧力を加えたりしている。

 この状況からフィリピン・カトリックは今だ『天動説』の世界に留まっていると批判を受けている。

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author:cebushima, category:2011 アキノ政権 Watch, 16:55
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2011 アキノ政権 Watch (3) アキノ政権から詰め腹を切らされた行政監察院院長
アキノに辞表を提出するグチェレス行政監察院長 行政監察院は高級公務員の汚職事件を扱う役所で、その長は大統領が任命し任期は7年、罷免は国会に開設される『弾劾裁判所』のみが可能で、並みの行政府の長より重要なポストになる。

 このポストに前大統領アロヨから任命されていたグチェレス院長が429日に辞職を表明した。(写真は辞表をアキノ大統領に提出したグチェレス行政監察院院長)

 グチェレスの任期は201212月までだったが、3月下旬に下院本会議で弾劾裁判所設置決議案が圧倒的多数で可決され、上院で弾劾裁判が59日に始まる予定となっていたが、その追求を避けるために弾劾裁判が始まる前の辞職に至った。

 グチェレスはアロヨの夫と大学時代の同級生という関係から、アロヨ一族とは非常に親しく、200512月に女性では初めての行政監察院院長に就任したが、在任中よりアロヨ夫婦への疑惑追及に消極的とのレッテルが張られていた。

 特に巨額な投資額の政府系ブロードバンド網(NBN=全国の役所を光通信で結んで行政の効率化を計る事業=フィリピンにこんな物は無用)プロジェクトでは中国政府の融資と大手中国通信と組んで進め、一度は受発注に至ったが不可解な契約キャンセルという事態を引き起こした。

 これはこのプロジェクトに対するアロヨ夫婦のあからさまな汚職関与を嫌った、中国最高首脳部の意向が働いてキャンセルに至ったと見られている。

 グチェレスはこの事件に対して適切な捜査を行わず、アロヨ夫妻に対して訴追を行わなかったことに批判が集まり、アキノ新政権になって追及の手が激しかった。

 アキノ政権としては大統領選第一の公約が『アロヨ前政権の汚職一掃』でもあるため、まずは外堀のグチェレスを埋めてアロヨの牙城に迫る作戦で、これが弾劾裁判所設置への背景となっている。

 アロヨ陣営は先の下院での弾劾裁判所決議は陣営に有利と読んでいたが、思わぬ大差で可決されてしまった。次の弾劾裁判所が設置される上院は弾劾賛成派が多数を占め、裁判前から有罪の評決が出ると見通されていた。

 このため、グチェレスを含めアロヨ陣営は『弾劾裁判の渦中に思わぬ爆弾発言、暴露話が出ては困る』と見て、弾劾裁判が始まる前にグチェレスの辞表提出を決断したと見られている。

 これによって、上院議長であるエンリレは『弾劾裁判は行わない』と早くも幕引き発言をし、アキノ自身も『国を救った行為』と訳の分からない声明を出す始末で、裁判という公開の場でアロヨ陣営の汚職が暴かれる機会を失した。

 『臭いものに蓋』がフィリピンの政治風土とはいえ、今回のグチェレス詰め腹辞任はフィリピン人には真に汚職解明を進める気がないことを内外に表明した結果となった。
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author:cebushima, category:2011 アキノ政権 Watch, 14:29
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