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フィリピン事件帖 2011(22) 旧日本軍の遺骨収集NPO『空援隊』が起こした盗骨事件
 フィリピンでの戦死者は日本兵だけで52万人弱になり、戦後になって厚生省(現厚生労働省)を中心に遺骨収集事業が行われていた。

 この収集事業を『空援隊』と称する民間団体に委託してからおかしな事件が起きだした。

 2008
年度からフィリピン住民の証言(乱暴なやり方である)によって見つかった遺骨は『日本人戦没者の遺骨』と見なされ、年間数百柱程度だった遺骨がこの年から急増、3年間で15千柱もの数が日本に送還された。

 ところが、この時期の遺骨収集作業と合わせるように、フィリピン各地の墓が荒らされる事件が頻発した。特にフィリピンの先住民は祖先の遺骨を洞窟に安置する風習があり、そこから空援隊の関係者が持ち出したと、フィリピン大学の考古学教授が断定、先住民団体も墓荒らし行為を糾弾している。

 また、一般の墓地から持ち出した遺骨を空援隊が金を支払って引き取っていた事実も明らかになっている。

 空援隊が収集したと称するこれらの日本人戦没者の遺骨をDNA鑑定してみると、半分はフィリピン人、中には子ども、女性のものもあったという結果が出ている。先の洞窟から盗んだ遺骨など400年以上前の物で、いかに酷い収集方法だったか分かる。

 この盗骨問題はアキノ大統領も関心を寄せていたため、日本政府は厚労省の担当部署で実態調査を行いその報告書が201111月に公表された。その検証結果は『空援隊と盗骨を結びつける明確な証拠はなかった』という白々しいもので、1年間も時間をかけた割には時間を浪費しただけだった。

 しかもこの実態調査をした厚労省の責任者(厚生労働省社会援護局企画課外事室長)が、こともあろうに20103月、洞窟での盗骨時に現地で立ち会っていた映像証拠(写真)が出てきた。

 調査は泥棒に捜査をやらしたようなお粗末さ、これでは事実解明はできないのは当たり前である。この時の現場には日本の元衆議院議員や登山家タレントも加わっていて、議員や著名人をNPOの活動に引っ張り出すのは怪しげなNPOに多いと、その道に詳しい専門家が指摘している。

 日本人戦没者の遺骨収集事業といえば誰しも否定するものではないが、こういった杜撰なやり方から日本遺族側からは『今までの尊い遺骨は偽物、全部嘘か』と憤りが起こり、フィリピン側からは『フィリピン人が日本の墓から遺骨を持ち出したら、日本人はどう思うのか』と痛烈な批判が寄せられている。

 『草生す屍こそあの無謀な戦争で死に追いやられた戦友の無残、無念さを象徴する。遺骨はそのままで良い』という90歳を超えた旧兵士もいて、戦後66年、戦地はフィリピンだけではなく、またフィリピン人や他の国の戦没者の遺骨はどうなっているのか。

 日本人戦没者の遺骨ばかりに目が向いているから、こんな破廉恥な事件を起こしたのではないか。


 
author:cebushima, category:フィリピン事件帖 2011, 08:21
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フィリピン事件帖 2011 (21) ダバオの女市長が衆人の前で顔面パンチ4発食らわす
パンチを食らわす女市長 フィリピン南部ミンダナオ島のダバオ市は世界で1番広い面積を持つ市として有名だが、フィリピンの数ある市の中でも人口規模(140万人)などはセブに次ぎ、ミンダナオ島では最大の市になる。

 戦前は『マニラ麻』の大産地で最盛期には3万人位の日本人が住み東南アジアでも有数の日本人入植地でもあった。今は日本資本のバナナ農園が大規模経営され日本に輸入されるバナナはこのダバオ産が多くを占める。

 ここの市長は昨年5月の統一選挙で選ばれた女性のサラ・ドゥテルテ(33歳)、父親はダバオの政治を牛耳るロドリゴ・ドゥテルテ、母親はドイツ人。

 これといって実績を持たない娘が市長になったのは、父親が1988年からダバオ市長を務めた親の七光からだった。

 フィリピンには39年以上連続して市長職に就けない法律があり、4期目は自分の身内に席を渡して当人は下院議員など他の公職に立候補、3年腰かけて3年後に元職に返り咲くやり方が普通で、これがフィリピンの地方ボス政治の温床になっているが一向に改められる様子はない。

 ダバオの場合、娘にやらせるのは良いが娘の能力に不安があったのか、父親はなんと副市長に立候補した。つまり、娘が市長、前市長の男親が副市長に立候補し後見役を務める訳だが、このように入れ替わる例はフィリピンでは珍しくなく、要するに政治に対する倫理観が欠如しているのがフィリピンの選挙民と候補側にあるのは間違いない。

 さてその選挙戦、この地域で絶対的な政治権力を持つ一族は安泰、他の候補を寄せ付けず選挙で圧勝した(この時の対立候補は前下院議長という大物だった)。

 さて、顔面パンチ事件が起きたのは71日。当時ダバオ地方は大雨に見舞われ市内は冠水30人もの死者を出した。その水害対策で市長は奔走していたのだろうが、当日、市内のスクオッター地域(不法占拠地域)で強制取り壊しが始まっていた。

 このスクオッター地域とはフィリピンの都市部で、私有地や公有地に勝手に住み着いてしまう貧困層の居住地をいい、フィリピン中どこでも見られ、住みつかれると権利が生じてなかなか追い出せないのが実情である。

 裁判の判決を持って立ち退きを迫るが、多くは抵抗する住民によって取り壊す側とで流血騒ぎになる。今回の場合、企業の私有地だったが既に町に溶け込んでいてどこが不法状態か分からないが、型通りに警官隊を含む取り壊す執行側に対して住民が投石を繰り返し荒れ模様になった。

 それを聞きつけた市長が現場にやって来て裁判所の執行官を呼んで『執行を2時間』待ってくれといったと当人はいったらしいが、この場面、全国放送のテレビ・ニュースのトップで一部始終流れた。

 それによると市長が手招きして近づいた執行官に対して、いきなり顔面にパンチを4発叩き込んでいる。護衛の人間が止めなかったら無抵抗の執行官に対してもっとパンチは続いただろうし、市長は殴り足らない様子がニュースで繰り返し流された。(右端が市長、左のチェックシャツを着たのが執行官)

 為政者にあるまじき行為と当然、批判され普通なら傷害容疑で逮捕されて良い事件であるが擁護する者が多い。

 被害者は父親の権力を恐れて被害届がどうのこうのという話ではなく、この国の政治屋連中の駄目さ加減を満天下に晒す羽目になった。

 ただし、世論はやはり容認できなく、その風を呼んだ大統領府は地方自治体を管轄する内務自治省の調査によっては、市長を停職などの行政処分を検討すると見解を出したがどうせ有耶無耶になるとの見方が強い。

 ダバオの女市長、母親のドイツ人からパンチの出し方でも習ったような見事なパンチの入れ方であり、事件後の本人の反省の様子は見えない。

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author:cebushima, category:フィリピン事件帖 2011, 20:56
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フィリピン事件帖 2011 (20) タアル湖で養殖魚の大量死発生
タアル湖の養殖魚大量死 マニラから南の方角、直線で60キロ地点に『タアル湖=Lake Taal』がある。

 この湖の中には世界でも最小の活火山があり観光地として知られる。

 この活火山は最近、活動が活発になり麓に住む住民に対して、避難勧告が出されたが活火山見物に訪れる観光客相手に生計を立てる住民は無視を決め込んでいた。幸い噴火には至らず何となく収まった感じだった。

 ところが5月下旬から『養殖魚の大量死』が発生した。湖は魚の養殖が盛んで養殖する魚種は『ミルク・フィッシュ=フィリピン名バングス』と『ティラピア』の2種。

 バングスは小骨は多いがニシンのような味で、開きにして市場では大量に出回っている。ティラピアは日本では回転寿司などで『イズミ鯛』と名付けられているが、鯛とは関係ない淡水魚で流通業界のインチキな命名の代表例にもなる。

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月上旬のまとめでは大量死の魚は2,100トン、被害額2億ペソ(36,000万円)にも上り、養殖業者に大きな打撃を与えている。この原因だが『人災』と見られている。

 フィリピンの養殖業を管理する組織に農務省漁業水産資源局(BFAR)があり、養殖についての基準が定められている。BFARはいけすの面積500平米当たり1万匹が適当と規定してあるのに、タアル湖では100平米で15千匹、規定の78倍もの過密な状態で養殖するいけすが多かった。

 また、地域ごとに自治体などでいけすの数は制限され、湖全体では6,000ヶ所までとしているが、野放し状態で分かっているだけでも7,000ヶ所以上のいけすが設置されている。こういった実情から大量死は過剰な養殖によって起きた『酸欠』と見られている。

 酸欠は当時続いた長雨で湖表層の水温が下がり、低層にある酸素量の少ない水が循環して表層と入れ替わったためで、この現象は『ターン・オーバー現象』ともいわれ、以前にもあったが、今回のような大量死は例を見ない。低層湖底はいけす養殖魚の排泄物などが沈殿して酸素不足となっていてこの面でも過剰な養殖によって引き起こされた人災と見られている。

 この問題は議会でも取り上げられたが、違法を承知でいけす養殖を行う者が多く、これを取り締まる側の行政の怠慢、金による見逃し体質とフィリピン積年の無法体質が表れていて根本解決には程遠い。

 なお、今回の大量死した魚の処分だが毒物で大量死したわけではないため、冷凍保存あるいは加工するなど考えられるが、現状は穴を掘って埋める手しかなく食料に不足するフィリピンではもったいない結果となっている。

 こんな中、処分する魚を売買禁止の監視の目を潜って市場などで販売する人間も多く、行政は取り締まり追われている。

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author:cebushima, category:フィリピン事件帖 2011, 16:06
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