ミンダナオ島大虐殺事件 (17) 事件から一年が経った
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2010.11.23 Tuesday
2009年11月23日、ミンダナオ島マギンダナオ州で57人が虐殺された事件から今日は一周忌になる。
現在事件で逮捕、起訴された者を中心に裁判が行われているが、しかし、裁判は遅々とし進まず先行き不透明な状態になっている。
この事件では196人が殺人罪で起訴されたが、逮捕、拘置されているのはたった81人で、残る115人は逃亡、捜査側の無能力もあって新たに逮捕するのは困難な状況である。
被告となっているアンパトゥアン一族の前マギンダナオ州知事、その2人の息子の前イスラム教徒自治区知事と犯行現場の前町長が主犯と目され裁判にかかっているが、被告達は終身刑(フィリピンは死刑を実質的に廃止)を免れるためにあの手この手で裁判を伸ばしている。(写真はその一族の家、いまだ軍の装甲車が駐留している)
例えば事件の証人数だが、被告側証人は272人、弁護側証人は388人、双方合わせて615人も裁判所側に申請している。
フィリピンの裁判は証拠よりも目撃などの証言重視となっているから、こんなに大量に証人を用意したのだろうが、通常の裁判では証人数は10人内外というから異常な裁判になっていることは間違いない。
公判は週1回開かれているが、12月からは週2回のペースで開くと決定されたがその先は不透明である。また、公判の様子をテレビ中継するべきなどの外野の動きも活発である。
それでもこの裁判の決着は相当長期化するのが予想され、当然最高裁まで行くだろうから、この事件に割合関心の高いアキノ政権中では片が付かないだろうの予測が出ている。
事件を起こしたアンパトゥアン一族が増長したのは前のアロヨの庇護、政治的借りと衆目は見ていて、反アロヨを旗印にするアキノ在任中に決着がつかないと、次期政権によって一族に対する恩赦といった政治的取引で有耶無耶にされてしまう可能性がある。そういうことを平気でやるのがこの国の特徴でもある。
さて、この一族、拘置先では特別待遇を得ているらしい。この国は金さえあれば何でも動かせ、刑務所や拘置所といった拘禁施設でも金がものをいう。
話はそれるが、相当前に大麻事件で捕まり、死刑判決を受けた日本人が居て、結局、この人物は恩赦で釈放されたが、刑務所収監中に2千万円を使ったといい、金がなかったら無事に出られなかっただろうとまでいっている。
この人物収監中に子どもまで設けていて、こういう話はこちらでは当たり前で、フィリピン人は少しも驚かない。警察にしろ裁判にしろもう少し真面目にやってくれよと思うのは外国人だけだろう。
ミンダナオ島大虐殺事件 (15) 裁判は遅々として進まず
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2010.07.30 Friday
アキノ新政権が6月末に発足して、この大虐殺事件は陰に隠れがちだが裁判は行われている。
57人の被害者の中に大勢の報道関係者が含まれていたために、新しいニュースに食い付く習性の報道関係者もいつになく報道し続けている。
もっとも、なぜ30人以上もの報道関係者が襲われた車列に加わっていたかの疑問が前から挙げられていたが、最近裏話のような話が漏れてきた。
この話は報道関係者に対して車列に加わってくれたら『金』を出すとの要請が、襲われた側からあったとの話である。
その額、1万ペソ(2万円)といわれ、報道陣は必ずしもこの金欲しさに加わった訳でもないだろうが、1万ペソというのは殺された報道陣の中には月収以上の金額だったらしく、本来高給取りでおかしくない職種がこの程度であったとは、この国の経済成長が見かけだけというのがこういった事情で分かる。
報道陣を大量に付けていれば襲われることはないと考えたのだろうが、襲った側は軍、警察を巻き込んだ計画的な犯行だったから、この『保険』も役に立たなかった。
さて、7月28日に裁判が開かれ、被告たちの罪状認否が行われ、被告側は全員無罪を主張した。(写真中央の人物が事件の主犯、Phillipine Star紙より)
現在、この事件で殺人罪などの容疑で逮捕状が出ているのは200人近いが、逮捕されたのは3の1の70人程度であり、残りは逃げ回っていることになる。フィリピンの捜査能力の低さを考えると、これ以上の追及は無理なような気がする。
裁判はまだ罪状認否段階だから、端緒についた状態で長期裁判になりそうだ。ただし、アキノ政権がアロヨ前政権追及のためにこの事件を政治的に利用することも考えられ、どう転ぶか分からない。