RSS | ATOM | SEARCH
フィリピン・よもやま帖 2019 その−(16) セブ島射殺事件 日本人夫の罪と罰

 フィリピンで殺される日本人の多くは男性が多く、過去において日本人女性が殺される例はあまりなかった。

【写真はセブで咲いたコーヒーの花】

 少ない例の中で、2012年3月にセブ州ラプラプ市で27歳のフィリピン人を夫に持つ32歳の日本人妻が、夫から刺殺される事件があり、夫は一審で20年以上の有罪判決を受け刑務所に収監中だが、裁判の最終決着はまだである。

 

この事件の犯行動機は、酒に酔った夫の自尊心を損なう妻からの言動があったのではないかと見られているが、無職で生後1年未満の女児を抱えた妻としてはあれこれ言いたいこともあるであったのではないか。

 フィリピン人の夫は日本人妻の実家から援助を受けて土地を買い住宅を造っているが、外国人は土地の登記が出来ないために夫の名義となっていて、日本側遺族側は民事裁判で取り返そうとしているがかなり難しく、非は向こう側にあっても解決はかなり遠い。

 こういった例はフィリピンでは多く、外国人の夫が全額を出して土地を買い家を建てるあるいは商売を始めても、いざ離婚になれば法律を盾にしたフィリピン人妻に取られてしまうのがほとんどで、そういった落とし穴があることに特に頓着ないのが日本人である。

 さて、今回の例は日本人夫が日本人妻を殺害、しかも自分では手を汚さず日本から殺し屋に依頼している珍しい例で、事件は2018年8月24日、セブ市で起きた。

 この夫婦は20年近く前にセブへ来て事業を始めたが、小生もその頃日本人会の席上で見かけたことがあり、夫の印象は五月蠅そうな感じを受けたが夫婦仲は悪そうに見えなかった。

 その後、夫婦はフィリピンの雑貨小物、家具輸出業を始め事件当時はセブ市隣の町に自前の工場を持つなどして、事業としては成功していた感じがしていた。

 ところがやがてこの夫、10代半ば過ぎの少女を愛人に持つようになり、その間に子どもをもうけて夫婦仲は崩壊に向かうが、この夫に限らず男が愛人を持つのはフィリピンでは珍しくない。

 それでも、商売の方は順調であったようで夫は愛人にかなりの金を注ぎ込むが、会社の経営は妻の方に移り、夫は日本とフィリピンで生活する金と愛人に渡す金に困るようになった。

 事件は会社の帰りにセブ市内のモールで買い物をし一人で住まいに向かっていた妻(事件当時71歳)が、幹線道路上で信号待ちをしていた夕刻にはまだ間がある時に発生。

 オートバイに乗りヘルメットを被った殺し屋が停車中の妻に対して窓越しに数発発砲し、妻は即死状態であったが交差点の先頭で停まっていたために、車は衝撃で前に走り出し中央分離帯に当たって停車。

 という事件であったが、オートバイで近寄って車に向かって拳銃を発砲し仕留める手口はフィリピンの殺し屋の典型的なやり方で、この手で多くの人が殺されている。

 そのため、殺し屋による事件として警察は捜査を始めるが、フィリピン警察というのは捜査能力が低く、未解決事件というのはかなり多く、しかも貧乏人の関わる事件は捜査もいい加減と言われている。

 この事件の場合、外国人が殺されたこと、そのために在フィリピン日本大使館が動いたこともあり、遺族側から捜査側に有形無形の援助があったためともいわれ、これはフィリピンの警察は金を出さないと捜査をしない体質のため。

 それが事件解決に向かったのは、ドゥテルテ政権が強力に推し進める違法薬物捜査で実行犯が逮捕され、その繋がりから夫の愛人(現在28歳)も逮捕され、取り調べで日本人妻殺害事件が発覚した。

 その取り調べで日本人夫が愛人を通じて殺し屋に妻殺しを依頼していたなどが明らかになり、夫が住み殺された妻の本籍地のある兵庫県警が捜査に乗り出した。

 フィリピン国内での事件だから、日本にいる限りは逮捕されないのではと考えがちだが、実際日本からフィリピンに逃亡した犯罪者のその多くは『違法滞在』を理由に入管当局によって逮捕されて国外追放、乗機が日本国内に入った時に逮捕されている。

 しかし、『国外事犯』といって海外で起こした事件で当人は日本に居ても日本国内で逮捕が出来る仕組みがあって、この犯行を企てた日本人夫が『俺は捕まらない』と思っていたら馬鹿丸出しである。

 兵庫県警に日本で逮捕された夫は殺人罪で起訴され、神戸地裁で裁判員裁判として審理が進められ、検察は20年の懲役を求めていて判決は2019年12月11日にあった。

 判決は検察側の主張を認めて懲役17年となったが、既に高齢の78歳となった被告には死ぬまで刑務所に入っていろと宣告されたのも同然で、このまま最高裁まで争っても被告に有利になるとは思えない。

 

 日本側では一つの決着を見たが、セブ側の愛人など実行犯達は既に違法薬物の罪で刑務所に収監中だが、日本人妻殺害に関しての裁判はまた別でセブに置いて審理されているが、有罪は免れないであろう。

 この事件は兵庫県の地方紙でも取り上げられ、その写真付きの記事を見ると80歳に近づく被告の表情は元気な頃のセブの面影はすっかり失せていて、孤独な老人犯罪者という印象を受けた。

 

 何よりもこの夫婦の子どもなど一族が、犯罪者となった父親を厳しく糾弾していて、この被告及び殺害された妻、セブに来る前はどういう家庭環境に居たのか知る由もないが、幸福ではなかったと思わせる。

 こうして、セブで起きた日本人妻殺害事件は一応のピリオドを打てたが、今後、この手の事件が起きないとは誰もいい切れず、日本人がフィリピンで殺害される事件は年間二桁に迫るような年もあったが、近年は発生事件が少なくなったのも事実である。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2019, 18:00
-, -, pookmark
フィリピン・よもやま帖 2019 その−(15) ミンダナオ島南部地震で分かるフィリピンの建築の危なさ

 10月29日と31日にミンダナオ島南部で地震があり、死者21人、行方不明者2人、負傷者424人の大きな人的被害を受けた。

【写真−1 容積率などお構いなしに敷地一杯に建てられる】

 この被害の中で驚かされるのは公的発表による全壊家屋2万戸以上という数字で、半壊や一部損壊を含めれば地震で被害を受けた戸数はこの何倍にもなるのではないか。

 こう書くと、強震か烈震クラスの強烈な地震が一帯を襲ったかのような印象を持つが、最初の地震はマグニチュード(M)6.6、次の地震はM6.5と観測された。

 

 これを分かり易い『震度』に置き換えてみると、この震度という基準も国や組織によってマチマチで数値がかなり違っていて混乱するが、ここでは日本の気象庁が発表している震度を参考にする。

 

 それによると、今回のミンダナオ島南部地震はフィリピンでは震度6と発表されたが、日本の気象庁震度に換算すると震度4の中震であり、震度4というのは地震大国日本ではいつもあるチョッと強い地震である。

 

 震度4は屋内では睡眠中のほとんどの人が目を覚まして身の危険を感じ、重心の高い物が落下、ガラスの振動、屋外では電線の揺れがあり、老朽家屋を除き家屋への損傷は起きないとある。

 

 それが冒頭に書いたように大きな被害を生じたのは、フィリピンの建物の造りに耐震性がなかったことと、いい加減な施工が当たり前であったため、被害を受けた人々には言い方は悪いがバラック同然の家屋が多いためから来ている。

 

 特にコンクリート造りのビルが根元から折れているのがあって、こういったビルの被害の様子を見ると、柱や梁に適正な鉄筋が使われていない、あるいは全く入っていない手抜きが多い。

 

 写真−1は今回の地震で市内で4階建てのコンドミニアムの下2階が崩壊した被害を出したダヴァオ市で以前写したもので、恐らくダヴァオ市内では最高の高さになるコンドミニアムで、40階くらいの高層建築になる。

 

 写真を撮った時は躯体工事の真っ最中で、昔の記憶の中のダヴァオ市内は高い建物などなかったが、今年行った時はかなりの高いビルの姿が市内各所に散見された。

 

【写真−2 このいい加減な施工を見ると恐怖以上】

 

 写真−1の高層コンドミニアムを遠くから眺めて、どうもその施工状況に変な感じがしてじっくり見ると、写真−2でその施工のいい加減さがはっきり分かった。

 

 写真−2の柱の部分、2階から3階にかけての柱が2階部分で細くなっていて、特に左から3番目の柱など極端に細くなって3階のスラブに繋がっていて、明らかに施工の欠陥と分かる。

 

 こういった個所は他にもあって、写真の2階から3階のこの部分の柱はデザイン上の問題なのかと好意的に考えてもそれはあり得ず、こういう重大な欠陥をそのまま外部に露出している業者の頭を疑うが、フィリピンではこの程度は何でもないのかも知れない。

 

 こういう欠陥も外装に石を張ったりして綺麗に隠すから分からないだろうと考えているのだろうが、40階にも及ぶ高層ビルの根元のいい加減さを見ると、とても安心して住める物件ではないのは確かである。

 

 先述したように市内で4階建てのコンドミニアムで下2階部分が崩壊したように、フィリピンの鉄筋コンクリート造りの建物に信頼性がないということは前からいわれていたが、今回の地震を機に建築許可の見直しを始めるというが既に遅い。

 

 フィリピンは不動産バブルで各地に高層の商用ビル、コンドミニアムが林立しているが、震度5クラスの地震が来ればマニラ首都圏ではかなりのビルが崩壊すると予測されていて、それはセブでも例外ではない。

 

 教科書で習った『環太平洋火山帯』の縁に位置するフィリピンは火山も多く、当然地震も頻繁にあり、最近でも思い出すのは2013年10月のM7.1を記録したセブ島隣の『ボホール地震』があり、この地震ではボホール島を中心に200人近くが亡くなり、セブでも死者があり、セブの観光名所サント・ニーニョ教会の鐘楼が崩れビルの倒壊もあった。

 

【写真−3 セブ市内のビルだが厚化粧で中味はどうなっているか分からない】

 

 この時、小生は家人と共に郊外の墓地を訪れていて、地震のあった時はボホール島の方角から地面が揺れて伝わったのが分かり、立っているには少し腰を落とす必要があった。

 

 この時、一番心配したのはセブとマクタン島を繋ぐ古い橋で、この橋を架けた日本の技術屋が震度4から5以上の地震があったら橋は崩落する危険が高く、通常でもこの橋は渡らない方が良いと言っていた。

 

 幸いこの橋は崩落せず、今もいつも通り架かっているが、交通渋滞などで新橋を避けて通る時など、やはりその危険性に身構えてしまい、信頼性がないのは確かである。

 

 写真−3は最近写したセブ市内のビジネス中心地で、セブでも一番といわれるショッピング・モールがあり、かつてのゴルフ場後も写真の様にビルが林立し、最近では高層のコンドミニアムが続々と造られている。

 こうして見た目は綺麗でもその骨となる基礎や柱、梁など果たして地震に耐えられるように施工されているかどうか分からず、設計者も施工業者もその時が来てみないと分からず、いざ地震で崩壊したら関係者は『想定外』と言い訳をするのであろう。

 

 セブには50階に達する超高層のコンドミニアムが完成しているが、そういう高い建物に住むにはそれなりの覚悟が必要で、投資だなんだと日本人の小金持ちがこの手のコンドミニアムをフィリピンで購入するのはどうかと思うが、自分で住む訳ではないから良いのであろう。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2019, 20:53
-, trackbacks(0), pookmark
フィリピン・よもやま帖 2019 その−(14) ショッピング・モールを襲った強盗集団

 フィリピンは銃を使った犯罪の多い国で、それを取り締まる警察側も平気で容疑者を射殺し、その極端な例がドゥテルテ政権が進める『違法薬物関与容疑者抹殺』政策で、政権発足の2016年以来2万人近くが捜査当局によって問答無用で殺害されている。

 

【写真−1 さすがに今回の強盗団はこの正面からの侵入は避けた】

 

 そういった国柄だから強盗事件も銃で威嚇するなど普通で、10月19日午後7時過ぎにセブ市の隣のマンダウエ市にあるショッピング・モールの『J・センター・モール』で、宝飾貴金属店や両替所など5ヶ所が強盗団によって同時に襲われた。

 写真−1はそのモールの正面玄関を写したもので、写した時期はかなり前になるが、右下側に見える階段を上がって真ん中にある金属探知機と警備員による荷物チェックをするのは襲われた当時と変わっていない。

 

 襲った強盗団は15人程度と見られ、一味は写真−1の裏側、ジープニー・ターミナルのある入り口から車とオートバイを乗り付けて侵入しているが、そこには常時一人の警備員が居るが銃を持った強盗団に脅かされれば降参するしかない。

 

 この侵入口の前にはフィリピン・レストランがあり、また台湾人が経営するパン屋もあり、そこではどういう訳か日本の『餡パン』を売っていて、どちらの店も時々行っている。

 

 その入り口から入って左に折れる通路の取っ付きに今回襲われた両替え所があり、この両替え所2m×2mくらいの小屋で営業していたが、同モール内には2ヶ所の両替え所があり、もう1つはスーパーの中にあるため難を逃れた。

 両替え所の被害額は600万ペソ(約1250万円)というから、小さい営業所にしては結構な現金を扱っていると分かるが、あくまでも店側の申告だからどこまで本当かどうか分からない。

 

 宝飾貴金属店はやはり同じ階にあり3店舗が襲撃に遭っていて、それぞれの被害額は2000万ペソ、1000万ペソ、5000万ペソと申告されているがこちらも本当かどうか分からない。

 フィリピンではこの手の店には必ず銃を持った警備員が入り口に控えていて、いざという時に対処していて、1人の警備員が強盗と応戦し頭を撃たれて重体になったが、モール側の警備員連中は怖気づいて逃げてしまったのか無傷。

 

 そういえばここのモールの警備員は銃ホルダーは腰に下げていても銃自体は装着していなくて、その甘さが後で問題になっているが、モール内で銃が丸見えなど印象は良くない。

 もう1店襲われたのは質屋で、この質屋はスパー並びにあって、マクドナルドの裏の出入り口にも近く、その間には小さなファースト・フードの店が建ち並び人の出入りもかなり多い。

 

 また、質屋というのはフィリピンではかなり儲かっている業界で、襲われたのはどんな小さな町に行っても必ずある質屋チェーン店の一つで、この店の中はいつ見ても客が並んでいる盛況ぶり。

 

 質屋の損害額は5000万ペソと日本円で悠に1億円を超えるが、これも店側の申告額だから本当の所は分からないが、客が大勢いた店内で怪我人が出なかったのがせめてもの幸いだが、居合わせた客は相当パニックになったであろう。

 

 この質屋の先には回り込むようにしてモールの出入口があり、ここも金属探知機と警備員1人が常時居るが、一番人の出入りの少ない場所で強盗団はこの出入り口から逃走している。

 

 事件の起きた夜7時過ぎ、しかも週末の土曜日とあってモール内は客は多かったと思うがアッと言う間の犯行で、宝飾貴金属店のショー・ケースを叩き破る荒い手口ながら気が付かなかった人も多かったのではないか。

 

【写真−2 壁の東横インのサインの電気が時々切れてなかなか直さない】

 

 こういった強盗事件はなかなか摘発は難しいのだが、今回は島内に警察の緊急配備が布かれ、セブから110キロほど車で2時間以上かかる北部のボゴ市の港で逃走を計っていた犯人達を発見。

 この時、港で強盗一味と警察との間で銃撃戦があり、犯人一味の4人が射殺され残る6人が逮捕され、1人が深夜1時頃オートバイに乗ってセブから80キロ地点の町の検問で逮捕された。

 

 フィリピンにしてはスピード逮捕で称賛されて良いが、逮捕時に押収されたのは少額の現金だけで宝飾貴金属類は発見されていなくて、残る仲間が持って逃げていると見られている。

 

 しかし、あまりの手際の良さから強盗団と一味は警察と繋がっていて、わざとセブ島北端の港に逃走させて、一味を射殺して総額1億3千6百万ペソ(約2億8千万円)の盗品を横取りするつもりだったのではないかとの面白い話もある。

 

 実際、フィリピンの警察というのは全く信用できない連中の組織で、最近でも警察が押収した覚醒剤が大量に紛失し、多くの警官が関与したと問題になっていて、警察の最高幹部である警察庁長官も一枚噛んでいたと、大統領から首を切られているから恐るべし。

 そういう組織だからすぐにグル説、ネコババ説が出て来るのだが、確かに犯人検挙のスピードぶりからは、そう疑われても当然と思わせる所がフィリピン警察にはある。

 

 写真−2は強盗団に襲われたモールの正面部分で、丸い庇の所から写真−1の入口へ繋がり、後ろに聳える高層のビルは日本の東横イン・セブでこの東横インは開業して3年目に入っている。

 

 モール自体は開業7〜8年になろうとしているが、元々この敷地はマッチ工場があってそこを買収してモールを造ったが、この辺りはすぐ傍にサンミゲル・ビールの広大な工場があるように工場地帯であり、モールの立地としては今一つの感がある。

 

 その工場跡地を買い取ったのがドライ・マンゴー製造をして一代で財を築いた中国系の人物で、今はマクタン島にある韓国系のリゾート・ホテルを買収して観光業にも進出し、ボホール島にもリゾートを造っている。

 

 ただ、モールとしてはセブの既存のアヤラ、SM、ロビンソンと比較するとかなり格は落ち、客足も今一つ、テナントも冴えない店が多く、特にスーパーなど野菜や魚など売れないから鮮度が悪く、レジの取り回しも不味く二の足を踏む場所でもある。

 

 そういった所に日本の東横インが進出した理由は分からないが、このホテル当初は韓国系のロッテが開業するとニュースは流れたが、いつの間にか東横インになった経緯があって、高級志向のロッテは立地場所を見て手を引いたと見て良いのではないか。

 

 今回の強盗団、暇で緩く手薄なモールを物色して狙いを定め、このモールの近くに部屋を借りて様子を調べていたそうだが、犯行と逃走の手際良さは計画通りであったが、最後でドジってしまったから計画は穴だらけであったといって良いであろう。


 

author:cebushima, category:フィリピン・よもやま帖 2019, 18:44
-, trackbacks(0), pookmark