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フィリピン選挙2016 【その19】 過去から現在までの大統領選挙のまとめ

【同じ色のTシャツを着て、バイクや車で派手に練り歩く選挙運動の様子】

 

 前ダヴァオ市長のドゥテルテが第16代大統領に就任して4ヶ月が経過した。ドゥテルテは当初泡沫候補であったにも関わらず、あれよあれよという間に支持を伸ばして当選を勝ち取った。

 これはあと1週間後に迫ったアメリカの投票日間近で、ヒラリーの独走態勢から支持率を逆転したと伝わる共和党大統領候補のトランプと似ているようで、正に選挙は水物、蓋を開けるまで分からない。

 選挙は一票でも多い方が当選となり、2016年正副大統領選では大統領はドゥテルテの圧勝、副大統領はロブレドの辛勝と見なされているが、実際どうなのか大統領選を検証してみた。

 総投票数4255万票という膨大な数字の内、ドゥテルテの得た票数は1660万票。これだけの人間が投票した事は確かに凄いが、得票率で見るとわずか39.01%で40%に満たない。

 ドゥテルテに対してわずかと書くのは前回、2010年大統領選を制したアキノは総投票数3313万票に対して、1520万票を得ていて得票率42.08%で、次点は元大統領のエストラダの948万票で得票率26.25%であった。

 2016年はアキノ後継の元内務自治長官のロハスが下馬評では不人気ながら健闘して、997万票を得て次点に入り得票率は23.45%であった。3位に選挙戦が始まる前は当選確実と見られていたポー上院議員が910万票を得て得票率21.39%。

 4位に沈んだ副大統領から大統領への階段に野心満々であったビナイは541万票の得票率12.73%。5位は先頃亡くなったサンチャゴ前上院議員で、得票率3.42%であった。

 このように近年のフィリピンの大統領選は有力候補が乱立する傾向にあり、票は割れるが当選者はそれなりの得票率で当選している。アキノの前のアロヨの場合2004年選挙では総投票数3226万票に対して1290万票を集め、得票率は39.99%でドゥテルテより票を集めている。

 この時の対抗馬が選挙後に急死した著名な俳優のポーで、今回大統領選に出たポー上院議員の養父になる。ポーの得票は1178万票、得票率36.51%でアロヨは僅差で逃げ切った。

 落選したポー陣営はその後選挙不正があったと騒いでいたが、これは選挙後のフィリピンの年中行事のようなもので接戦の結果になると毎度ある話。

 アロヨの前は1998年に当選したエストラダで、総投票数2928万票に対して得票率39.86%の1072万票を得た、この時も有力候補者が乱立し、次点は与党が担いだ候補者の426万票の得票率15.87%でエストラダは次点の倍以上の得票だからこれは圧勝したと数字からも間違いない。

 さてエストラダ当選のその前の1992年大統領選ではアキノ(母)後継のラモスが当選。ただし、得票率は総投票数の4分の1にも満たない23.58%で、これは戦後に行われた大統領選で最も低い得票率の当選であった。

 ラモスはドゥテルテを担ぎ出した1人といわれていて、中国特使になるなどドゥテルテ贔屓であったが、最近はドゥテルテの反米発言に嫌気を出して批判側に回ったが、元大統領として偉そうに発言するものの、最低得票率で当選した大統領という評価は死ぬまで付いて回るであろう。

 この時の次点は先に述べたサンチャゴで446万票を集め得票率19.72%と善戦し、選挙後は不正があったと騒いだがいつの間にか腰砕け。サンチャゴはエストラダが当選した1998年にも続けて立候補していて、この時は7位と泡沫候補並みの79万票、得票率わずか2.96%であった。

 前回選挙で次点に入った勢いは完全に失速してしまったが、肺がんを押して2016年に3度目の立候補をして、2度目の候補時より2倍近い145万票を集めたのがせめてもの慰めになる。

 さて、1986年の大統領選は歴史的な転換点であり、マルコス独裁政権が倒れた年になる。この時の総投票数2015万票に対してマルコスは1080万票、得票率53.62%。対する野党統一候補のアキノ(母)は929万票、46.1%を得た。

 この数字は公式統計から拾っていて、選挙の数字上ではマルコスは勝っているが、不正が行われたとしてエドサ政変に繋がり、マルコスは結局ハワイへ逃げ、アキノが大統領となった。結局、この選挙の正確な数字はどうなっているのかと気にかかるが、あまりその辺り追求しないのがフィリピン流になっているようだ。

 その逃げ出したマルコス、1981年大統領選で得票率88.02%の記録が残っていて、これは歴代大統領でも最高の得票率になるが、独裁時代の形ばかりの大統領選では正にヤラセ選挙と断じて良いだろう。


 

author:cebushima, category:フィリピン2016年選挙, 17:22
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フィリピン選挙2016 【その18】 セブ州の選挙結果

 セブ州知事はガルシア父娘が6期連続18年間独占していたが、前回選挙で一族から出した候補が現知事のダビデに敗れ落選。今回雪辱を期して再び一族のホープを投入したが、59万票対57万票の2万票余の僅差で落選し、やはり奪回はならなかった。

 今回再選されたダビデはアキノ与党の自由党所属の元セブ市市議で、父親はセブ出身で最高裁長官を務めた高名な法曹人であった。副知事選も自由党の推した人物が再選され、セブは自由党が強い事を証明した。【写真は民家に張られた当選した候補者のスティッカー】

 ガルシア一族というのはセブを本拠にする英字紙を経営し、一族からは閣僚を出したこともある政治屋一族で、セブのもう一方の政治屋一族オスメニャ一族と縁戚関係を持ち、セブの政界を牛耳っている。

 知事職を永年続けたガルシアの当主は80歳を超える高齢ともあって、政界を引退し今回は知事を退いた後の下院議員をやはり息子に譲ったが、この息子も落選。前知事で3期9年を務め連続4選禁止規定のために下院に回った娘のグエンは、今回も安定した戦いで再選された。

 このため次回か次々回の知事選にはこのグエンが再出馬しガルシア家の知事独占を狙っているという話が流れているが、3年先のセブの政界勢力図はどうなっているか誰も判らず噂の域を出ていない。

 なお、セブ首都圏を構成するリロアン町ではこのグエンの娘が町長に立候補して当選。しかし、この町の前町長は今回当選したグエンの娘の夫であり、この夫は連続4選禁止規定に引っかかるために取り敢えず妻を当選させて、自分は副町長に立候補して当選して夫婦で町政を独占した。

 こういった話はフィリピンでは珍しくなく、今回大統領に当選したダヴァオ市長のドゥテルテも、4選規定の時は娘に市長をやらせ、自分は副町長に収まっている。なお、今回大統領選に回った父親の跡目を継いで娘がダヴァオ市長に立候補し、対立候補なしで当選。こうなると中世同様の領主様と同じで、これがフィリピンの政治が動かない要因となっている。

 フィリピン憲法でははっきり『世襲禁止』条項があるが、議員連中が自分の首を絞めるような事はあり得ず法制化は棚上げ状態。恐らく永遠に立法されず有象無象の政治屋ども一族が甘い汁を吸い続ける構図は変わらないであろう。

 次にセブ市長選だが、こちらは前回僅差で落選した自由党のトマス・オスメニャが当選して復活した。トマスは4選規定で1期を子分同様のラマにセブ市長をやらせ、自分は下院議員1期をやって、再びセブ市政に復帰する絵図を描いていたが、前回当選し力を付けたラマが立候補してよもやの指定席を失ってしまった。

 3年間浪人生活となったが、オスメニャの威光はまだ健在で、今回は25万票対23万票でやや差を付けて勝利。これでまたセブ市政が3期9年間、あの顔で続くのかと思う市民も多数いるようだ。副市長選は野党側の候補が当選して、正副市長が別々の党派となるが、こういった例は珍しくない。

 なお、トマスの従兄弟にあたるセルヒオ上院議員は再選を狙って上院に立候補したが、当選枠12人中、14位でよもやの落選。オスメニャ一族はかつて同時に2人の上院議員を輩出していた時代もあって、昔日の栄光という言葉が合う凋落ぶりを天下に晒した。

 同じ市長レベルでセブ市に隣接するマンダウエ市では、現市長とマンダウエ選出の下院議員がそれぞれの公職を取り換えて立候補しどちらも当選した。マンダウエ市長選はヤマハのオートバイを製造していた地元財閥の一族のキソンビンが、前市長を務めたマンダウエの政治屋一族から市長奪回を狙った女性候補を大差で破った。

 また、交換した下院選ではマンダウエ市長だったコルテスが悠々当選。こういった露骨な公職のたらい回しもフィリピンには多く、驚くほどのものではない。

 町長レベルではセブ島最北端の町ダアンバンタヤンで、現職町長が7票差で敗れて話題になり、当選したのは前回町長選で敗れた当人の夫で、夫を身代りに出して雪辱戦を行ったと見られるが、それが成功。恐らくこの妻が遠隔操作で町政を牛耳るだろうと地元では囁かれているし、この当選した夫は元国家警察の高官で、警察力を使って町を支配するのではと危惧されている。

 今回当選した人物の元町長であった妻は日本へ仕事に行ったことがあり地元では『ジャパユキ』と評判が悪く、実際、日本人の愛人だったのか妻だったのか分からないが、日本人との間に息子が居て、この息子はセブ州議に今回再選されていて、ゆくゆくは下院議員に出るという話も出ている。



 
author:cebushima, category:フィリピン2016年選挙, 18:07
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フィリピン選挙2016 【その17】 大統領選の州別制覇の傾向

【写真は当選したドゥテルテの頭の程度が知れる選挙キャンペーン用ポスター】

 正副大統領選は開票率96%台に至り、大統領は野党のドゥテルテ、副大統領は与党が推したロブレドの当選となったが、中央選管の公式発表というのはまだ行われていなくて、在野の選挙監視団体や新聞やテレビが独自集計した数字が基となっている。

 そのため21万票余の僅差で開票の進む副大統領選は次点となったマルコスが開票に『不正操作』があったと騒いでいるが、落選確実の候補者からこのようなクレームが出るのは、フィリピンの選挙に付きもので悔しさや腹いせがほとんどで往生際が悪いのが特徴である。

 フィリピンには81の州があって、セブ島に近いシキホール島やカミギン島のように小さな島が単独で州となっているのもあって、例えばシキホール州では29万票ほどの総投票数でセブ州は120万票と大きく違い、単純にその州を制した数では勝利を決め難いが、今回の地域的な投票傾向が分かるので紹介しておきたい。

 また、参照資料が中央選管の公式発表ではなく、民間の非公式集計のため集計団体によって集計方法が違うためか州を制した候補者が違っている例も出ていて、厳密な記述ではないことをあらかじめ断っておく。

 大統領選はドゥテルテがミンダナオ島ダヴァオ市長ということもあって圧倒的に強く、ほとんどの州を押さえた。また、ドゥテルテは大票田のマニラ首都圏とその周りの州を全て制し、ヴィサヤ地域のセブ、ボホールといった従来は与党の強い州でも勝利している。

 次点のロハスは地盤のパナイ島を中心にした近隣の島、サマール、ネグロス、パラワン、ミンドロの1州を押さえて特にフィリピン中部ヴィサヤ地区で強い事を証明した。また、ミンダナオ島では3州を制し、こういった州ではロハスを押した与党の自由党が強い事も関係がある。

 しかしルソン島では2州を制止したのみで、アキノの地盤のタルラック州と今回副大統領としてペアを組み当選したロブレドの地元南カマリネス州だけで、ルソン島で票を集められなかったのが落選の原因の一つになっている。

 3位になったポーは、事前では全国的に支持を広げている感じであったが、制したのは11州程度で、しかもルソン島の首都圏周辺部から離れた州が多かった。ヴィサヤやミンダナオで思ったほど票を得られなかったのが3位に沈んだ原因の一つと考えられる。

 4位のビナイは選挙が始まる前は独走態勢の様相を見せ、悠々当選かと見られていたが、ポーの人気上昇とドゥテルテの立候補によって人気と勢いを失い、今回制した州はルソン島北部に連なる州のみで、落ち目とはいえ6州を制した。

 ここでは制した州を書いているが先述したように小さい州は当然票数自体は少なく、例えばロハスが制したシキホール州など僅か2万6千票余の得票で、逆に全国有数の大票田のセブ州では制したドゥテルテが113万票余を得、58万票を得たロハスは次点となっている。

 このため一概に多数の州を制した者は勝利するとは言えないが、一番多く州を制したドゥテルテが当選というのは流れとしては順当であった。



 
author:cebushima, category:フィリピン2016年選挙, 21:48
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